高級な牛肉の代名詞として知られる「霜降り肉」。その美しい見た目ととろけるような食感を生み出しているのが「サシ」です。しかし、「サシって具体的に何?」「霜降りと何が違うの?」と疑問に思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。
サシは、牛肉の赤身の中に網目状に入り込んだ脂肪のことを指します。 このサシが、お肉の味わいや食感を大きく左右する重要な要素なのです。この記事では、肉サシの基本から、美味しさの秘密、品質を見分ける基準、サシが入りやすい部位、さらには健康との関係まで、あらゆる角度から詳しく解説していきます。この記事を読めば、あなたも肉サシの専門家になれるかもしれません。
肉サシとは?牛肉の美味しさを左右する脂肪の正体

お肉屋さんや焼肉店で「良いサシが入っている」という言葉を耳にしたことはありませんか?これは、牛肉の品質を語る上で欠かせない要素です。ここでは、肉サシの基本的な定義から、美味しさの秘密までを掘り下げていきます。
サシの基本的な定義
専門用語では「脂肪交雑(しぼうこうざつ)」と呼ばれ、英語ではその見た目が大理石(マーブル)に似ていることから「マーブリング」とも呼ばれます。 ポイントは、単なる脂肪の塊(脂身)ではなく、赤身の中に模様のように差し込んでいる脂肪であるという点です。 このサシは主に和牛、特に黒毛和牛に顕著に見られる特徴で、鶏肉や豚肉ではほとんど見られません。 そのため、サシは高級な和牛の代名詞とも言える存在なのです。
「霜降り」との違いは?
「サシ」と「霜降り」は、しばしば同じ意味で使われますが、厳密には少しニュアンスが異なります。
サシ:赤身に入り込んでいる脂肪そのものを指す言葉です。
霜降り:サシが赤身に細かく入っている状態や、その状態の肉そのものを指します。
まるで、霜が降りたかのように白い脂肪が美しく散らばっている様子から「霜降り」と呼ばれています。 日常会話ではほぼ同じ意味で使われることが多いですが、「サシが入る」ことで「霜降り肉」になると理解すると分かりやすいでしょう。
なぜサシが入っていると美味しく感じるのか?
サシが入ったお肉が美味しいと感じるのには、科学的な理由があります。主な理由は「風味」「食感」「柔らかさ」の3つです。
1. 風味の豊かさ
加熱するとサシ(脂肪)が溶け出し、牛肉の旨味成分を凝縮させる働きがあります。 これにより、牛肉本来の豊かな風味が口いっぱいに広がります。特に和牛の脂肪には「和牛香(わぎゅうこう)」と呼ばれる、甘くコクのある独特の香り成分が含まれており、食欲をそそります。
2. とろけるような食感
質の良い和牛のサシは、融点(脂肪が溶け出す温度)が低いという特徴があります。 そのため、口に入れた瞬間に体温でとろけるような、滑らかな食感を生み出すのです。 この口溶けの良さが、多くの人を魅了する理由の一つです。
3. 肉質の柔らかさ
サシが筋繊維の間に細かく入ることで、肉の組織が分断され、加熱しても硬くなりにくくなります。 脂肪が溶け出すことで、筋繊維がほぐれやすくなり、驚くほど柔らかい食感を楽しむことができるのです。
肉サシの評価基準「BMS」とは?
牛肉のサシの入り具合は、見た目の美しさだけでなく、その品質を評価するための客観的な基準にもなっています。その代表的なものが「BMS」です。ここでは、牛肉の格付けに深く関わるBMSについて詳しく解説します。
BMS(ビーフ・マーブリング・スタンダード)の概要
BMSとは「ビーフ・マーブリング・スタンダード(Beef Marbling Standard)」の略称で、日本語では「牛脂肪交雑基準」と呼ばれます。 これは、牛肉のサシ(霜降り)の度合いを評価するための基準で、日本食肉格付協会によって定められています。
BMSは、サシの入り具合を12段階の数字で評価します。 数字が大きいほどサシが密に入っていることを示します。 このBMSの評価は、私たちがよく目にする「A5ランク」といった牛肉の格付けにおける、「肉質等級」を決定する4つの項目のうちの1つで、最も重要視される項目です。
牛肉の格付けは「歩留等級(A, B, C)」と「肉質等級(1〜5)」の組み合わせで決まります。
– 歩留等級:一頭の牛からどれくらいの量の肉が取れるかを示す等級。Aが最も良い。
– 肉質等級:以下の4項目を総合的に評価し、最も低い等級に合わせて決定される。
1. 脂肪交雑(BMS)
2. 肉の色沢
3. 肉の締まり及びきめ
4. 脂肪の色沢と質
つまり、「A5」と評価されるためには、歩留等級がAであり、かつ肉質等級の4項目すべてが最高の「5」と評価される必要があるのです。
BMS No.1〜12の具体的な基準
BMSはNo.1からNo.12までの12段階に分かれています。この数字が、肉質等級(1〜5)に以下のように対応しています。
| 肉質等級 | BMS No. | 特徴 |
|---|---|---|
| 5等級(最高) | No.8 〜 No.12 | 非常にきめ細かく、密にサシが入っている状態。 |
| 4等級 | No.5 〜 No.7 | かなり多くのサシが入っている状態。 |
| 3等級 | No.3 〜 No.4 | 標準的なサシの入り具合。 |
| 2等級 | No.2 | サシがやや少ない状態。 |
| 1等級 | No.1 | サシがほとんど入っていない赤身の状態。 |
特にBMS No.12は、サシの入り具合が最高ランクであることを示し、非常に希少価値が高いとされています。 このようにBMSの基準を知ることで、サシの度合いを具体的に理解することができます。
等級が高いほど美味しいとは限らない?
「A5ランクだから絶対に美味しい」と思われがちですが、実は一概にそうとは言えません。BMSの評価はあくまでサシの「量」や「見た目」の基準であり、味そのものを保証するものではないからです。
サシが豊富な肉は、脂肪の甘みやとろけるような食感を楽しめる一方で、人によっては「脂っこい」「たくさんは食べられない」と感じることもあります。 逆にあえて等級の低い赤身肉を選び、肉本来のしっかりとした旨味や噛みごたえを好む人もいます。
近年では、単にサシの量だけでなく、脂肪の「質」にも注目が集まっています。 例えば、後述するオレイン酸の含有量などが、新しい美味しさの指標として考えられるようになっています。
最終的には、個人の好みが最も重要です。BMSや格付けはあくまで一つの目安として捉え、自分の好きな味わいや食べ方に合わせてお肉を選ぶことが、最高の食体験に繋がるでしょう。
サシが入りやすい牛肉の部位

牛肉と一言で言っても、部位によって肉質やサシの入りやすさは大きく異なります。一般的に、牛の体であまり動かさない筋肉ほど、サシが入りやすく柔らかい傾向にあります。ここでは、特に美しいサシが楽しめる代表的な部位をご紹介します。
サシの王道「サーロイン」
「牛肉の王様」とも称されるサーロインは、サシが入りやすい部位の代表格です。 背中の中央から腰にかけての部位で、運動量が少ないため、きめ細かく美しい霜降りが入りやすいのが特徴です。 肉質は非常に柔らかく、ジューシーで、赤身の旨味と脂の甘みのバランスが絶妙です。
その美味しさを最も堪能できる調理法は、やはりステーキでしょう。 厚切りにして焼くことで、表面は香ばしく、中はサシが溶け出してとろけるような食感を楽しむことができます。特別な日のお祝いや、自分へのご褒美にぴったりの高級部位です。
濃厚な味わい「リブロース」
サーロインの隣、肩ロースとサーロインの間に位置するリブロースも、サシが豊富で人気の高い部位です。 ロースの中でも特に厚みがあり、肉質もきめ細やか。霜降りが入りやすく、赤身と脂のバランスが非常に良いのが特徴です。
リブロースは、脂の甘みと赤身の濃厚な旨味が強く感じられるため、様々な料理でその美味しさを発揮します。 ステーキはもちろん、すき焼きやしゃぶしゃぶにすると、溶け出した脂が他の具材にも絡み、全体の味わいを一層豊かにしてくれます。 また、焼肉用のロースとしても人気が高い部位です。
希少部位「ザブトン」「ミスジ」
近年、焼肉店などで人気が高まっているのが、サシが美しい希少部位です。
- ザブトン(ハネシタ)
肩ロースの一部で、牛一頭からわずかしか取れない希少な部位です。座布団のような四角い形をしていることから、この名前が付きました。全体に美しいサシがびっしりと入っており、口に入れた瞬間に溶けるような柔らかさと、濃厚な肉の旨味、上品な脂の甘みが特徴です。焼肉で軽く炙るように焼いて食べるのがおすすめです。 - ミスジ
肩甲骨の内側にある部位で、こちらも一頭から取れる量が非常に少ない希少部位です。 肉の真ん中に一本大きな筋が入っているのが特徴で、名前の由来にもなっています。サシが細かく入っており、とろけるような食感と、赤身のしっかりとした味わいを同時に楽しめます。 独特の風味があり、焼肉やすき焼きでその個性を堪能できます。
この他にも、「三角バラ」や「イチボ」など、部位によってサシの入り方や味わいは様々です。 色々な部位を試して、自分好みのサシを見つけるのも牛肉の楽しみ方の一つです。
美味しい肉サシの見分け方と選び方
スーパーマーケットやお肉屋さんで牛肉を選ぶ際、どれを選べば良いか迷ってしまうことはありませんか?美味しいお肉を選ぶためには、サシの「量」だけでなく、「質」や「見た目」にも注目することが大切です。ここでは、美味しい肉サシを見分けるための3つのポイントをご紹介します。
サシの「キメ細かさ」をチェック
美味しいサシの最初のポイントは、そのキメの細かさです。サシが太くまだらに入っているものよりも、細かく均一に、まるで網の目のように入っているものを選びましょう。
キメの細かいサシは「小ザシ」とも呼ばれ、加熱した際に脂肪が均一に溶け出しやすいため、肉全体が柔らかく、とろけるような滑らかな口当たりになります。 逆にサシが太いと、脂っぽさを強く感じてしまうことがあります。赤身と脂肪の境界線がはっきりしているものは、新鮮な証拠とも言われています。 全体をよく見て、サシが美しく均一に広がっているお肉を選ぶのが、美味しいお肉を見つける第一歩です。
脂肪の色と光沢で鮮度を見極める
次に注目したいのが、サシ(脂肪)の色とツヤです。質の良い牛肉の脂肪は、白または乳白色をしており、光沢があってキラキラと輝いて見えます。 このような脂肪は、風味が良く、口当たりも滑らかです。
一方で、脂肪が黄色がかっているものは注意が必要です。これは、牛の年齢や飼料、あるいは鮮度が落ちている可能性を示している場合があります。 また、脂肪が乾燥してパサついていたり、ツヤがなかったりするものも避けた方が良いでしょう。新鮮で質の良い脂肪は、お肉の美味しさを大きく左右する重要な要素なので、色と光沢をしっかりと確認しましょう。
赤身と脂肪のバランスが重要
最後に、サシの量だけでなく、赤身と脂肪の全体のバランスを見ることが大切です。いくら美しいサシが入っていても、赤身部分の色が悪ければ美味しさは半減してしまいます。
赤身の色: 鮮やかで深みのある紅色や鮮紅色が理想的です。 黒ずんでいたり、くすんだ色をしていたりするものは鮮度が落ちている可能性があります。ただし、お肉が重なっている部分が黒っぽく見えることがありますが、これは空気に触れていないためで、品質には問題ありません。
ドリップ: パックの中に赤い液体(ドリップ)がたくさん出ているものは避けましょう。 ドリップは、肉の旨味成分や栄養素が流れ出てしまっている証拠です。
サシの量については、前述の通り個人の好みが大きく影響します。脂の濃厚な味わいが好きな方はサシが多いものを、赤身の旨味をしっかり味わいたい方はサシが控えめなものを選ぶと良いでしょう。 重要なのは、赤身と脂肪の両方が新鮮で質の良い状態であり、全体のバランスが取れていることです。これらのポイントを押さえて、自分にとって最高の一枚を見つけてください。
肉サシと健康に関する気になる疑問

「サシが入ったお肉は美味しいけれど、脂肪だから体に良くないのでは?」と心配される方も少なくないでしょう。確かにサシは脂肪ですが、その成分や質を知ることで、上手な付き合い方が見えてきます。ここでは、肉サシと健康に関する気になる疑問にお答えします。
サシ(脂肪)の主成分とカロリー
牛肉のサシ、つまり筋肉内脂肪は、主に「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」という2種類の脂肪酸で構成されています。 一般的に、動物性脂肪に多く含まれる飽和脂肪酸は、摂りすぎると血液中の悪玉コレステロールを増やす可能性があると言われています。
もちろん、脂肪であるためカロリーは赤身肉に比べて高くなります。そのため、ダイエット中の方やカロリーを気にしている方は、食べる量に注意が必要です。しかし、牛肉の脂質は、私たち人間にとって重要なエネルギー源であり、細胞膜やホルモンの材料にもなる不可欠な栄養素でもあります。
食べ過ぎは体に悪い?上手な付き合い方
どんな食品でも同様ですが、サシの多いお肉も食べ過ぎは禁物です。 脂質の過剰摂取は、肥満や生活習慣病のリスクを高める可能性があります。
しかし、適量を守り、バランスの良い食事を心がけることで、健康的に楽しむことができます。例えば、以下のような工夫がおすすめです。
- 野菜と一緒に食べる: 食物繊維が豊富な野菜と一緒に食べることで、脂肪の吸収を穏やかにする効果が期待できます。
- 薬味を活用する: わさびや大根おろし、ニンニクなどの薬味には、消化を助けたり、風味を豊かにして満足感を高めたりする働きがあります。
- 調理法を工夫する: 網焼きやしゃぶしゃぶなど、余分な脂を落とす調理法を選ぶのも一つの方法です。
サシの多いお肉は、特別な日のごちそうとして、適量を美味しくいただくのが賢い付き合い方と言えるでしょう。
オレイン酸が豊富な和牛のサシ
実は、和牛のサシ(脂肪)には、健康に良いとされる「オレイン酸」が豊富に含まれています。 オレイン酸は、不飽和脂肪酸の一種で、オリーブオイルの主成分としても知られています。
このオレイン酸には、善玉コレステロールを減らすことなく、動脈硬化などの原因となる悪玉コレステロールだけを減らす働きがあると言われています。 さらに、和牛の脂肪は融点が低いため、体内で溶けやすく、比較的消化が良いとされています。 そのため、質の良い和牛のサシは、他の動物性脂肪と比べて胃もたれしにくいと感じる人もいます。
「霜降り肉は健康に悪い」というイメージは、必ずしも正しくありません。和牛のサシには、美味しさだけでなく、健康面でのポジティブな側面もあるのです。 もちろん、食べ過ぎには注意が必要ですが、その質にも目を向けて、上手に食事に取り入れていきたいですね。
まとめ:肉サシを理解して、もっとお肉を楽しもう

この記事では、「肉サシとは何か」という基本的な問いから、その美味しさの秘密、評価基準であるBMS、サシが入りやすい部位、見分け方、そして健康との関係まで、幅広く解説してきました。
肉サシとは、単なる脂肪ではなく、牛肉の赤身に網目状に入り込んだ「脂肪交雑」のことです。 このサシがもたらす豊かな風味、とろけるような食感、そして驚くほどの柔らかさが、私たちを魅了する美味しさの源泉となっています。
また、サシの入り具合を評価する「BMS」という基準を知ることで、牛肉の格付けへの理解が深まります。 しかし、等級が高いことが必ずしも万人の「美味しい」に繋がるわけではなく、サーロインやリブロースといった部位ごとの特徴や、キメ細かさ・色ツヤといった見分け方のポイントを押さえることで、より自分好みの一枚を選べるようになるでしょう。
健康面では、食べ過ぎに注意する必要はありますが、和牛のサシには健康効果が期待されるオレイン酸が豊富に含まれているという嬉しい側面もあります。
サシについての知識は、牛肉を選ぶ際の確かな「ものさし」となります。次に牛肉を手に取るときには、ぜひこの記事の内容を思い出し、その美しいサシをじっくりと観察してみてください。きっと、これまで以上に牛肉を深く味わい、楽しむことができるはずです。



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